[明くん]

「……さん、影次さん」

 穏やかな声にゆっくりと瞼を開ける。

「うっ……ん」

 ぐらぐら揺れる視界と、頭痛と気持ち悪さに呻く。

 ようやく焦点が合うと――薄化粧をした地味な少年の顔が映った。

「大丈夫ですか? ウコンと頭痛薬です」

 水の入ったグラスを握った右手と、錠剤が載った左手が差し出される。

「ああ……ありがとう」

 上半身を起こし、ウコンのサプリメントと頭痛薬をつまんで口に含み、グラスを受け取り飲み下した。

「ひとりで部屋に帰れますか?」
「大丈夫……」
「そうですか。では僕はお客さま待たせているので」

 しゃがんでいた少年が立ちあがる。茶色の革にくすんだ金の留め具がついたコルセットに、飾り気のないショーツを穿き、透けるほど生地が薄い黒のガウンを羽織った姿。

「明(あきら)くん」
「はい」

 頭の禿げあがった痩せた男に呼ばれ、明は小走りで向かった。

「……やっぱり地味だよなあ」

 明と客が去ってから独り言ちる。俺より小柄で華奢な体や柔らかい栗色の髪で雰囲気は可愛らしいかもしれない。しかし顔立ちが印象に残りづらいくらい地味だった。

 しかし、俺より忙しそうにしている。案外こういうほうがウケがよいのだろうか。化粧で飾らず、素朴なままにしているということは。

 ……いや、人柄か。酔い潰れて、使用人にも気づかれることなく広間の隅で転がっていた俺を助けてくれたのだ。





「明くんは本当いい子だなあ」
「そうですか? 当然のことです」

 部屋に入ると、お客さまに抱きしめられる。キスをされる。

 そのまま舌を絡め取られながらショーツを下ろされ、陰茎に触れられる。

「んっ……ふぅ……」

 ゴシゴシと加減なく扱かれ僕は――

「……いってぇんだよっ! ちんこもげるだろーがっ!」

 お客さまの顔面を拳で思いっきり殴った。ガリガリに痩せたお客さまは小柄で非力な僕の殴打でもよろめいてしまう。さらに蹴りを入れて倒す。

「アタタタ……ひどいよ、明くん。気持ちよくなかったのかい?」
「ハァ? カッパみたいなお前に扱かれて気持ちいいわけないだろ? ヘタクソだしさ」

 中途半端に勃起した陰茎をショーツを上げて隠し、お客さまの体を蹴りつづける。

「私のことが、好きなんじゃなかったのかい……?」
「自惚れカッパかよ! オレが好きなのは金だよっ! 金っ! 恋人ごっこしたけりゃ金目のもの持ってこいやっ! だから付き合ってやってんだよっ! 使用人たちのオレの扱いが良くなる! 将来も安泰だっ! 変態カッパと遊んでたって楽しくもなんともないんだよっ! オレが唯一楽しいのは金稼ぎぃいいっーっ! ……はあ、はあ」

 怒鳴り散らし、疲れて蹴るのをやめる。お客さまは痙攣したように震えながら、股間を濡らしていた。


「私にだけ本音をぶつけてくれる君のことが大好きだよ」
「……僕もあなたのことが大好きです」

 このお客さまはこんな遊戯をして、自分は特別だという思いに酔いたいのだ。

 その辺の男娼じゃ「嫌だ、あんなの遊戯でしょう」と返してしまうであろうところを僕は否定せず、ふんわり笑ってキスをして、帰っていくお客さまを見送った。


 さて、あと何人変態カッパの相手をしたら僕は幸せの絶頂に至れるのだろうか。



 END.



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