今度はベッドにうつぶせてもらう。スタイルのよい女には劣るのだろうが、優美な曲線を描いている尻。が、目をこらすと所々痣があるのに気づく。色々とポーズを変えさせているうち、その痣は尻だけではないことがわかった。肩甲骨の頂の脇、膝の裏の陰影、その他色々。どうやら、白皙の肌は完璧ではないようだ。あと、腋の手入れはまだ完遂しきれていないらしい。窪(くぼ)みにわずかな黒ずみと、毛を処理した跡があった。

 コルセットをはずしてもらう。ちょっとぶつけただけで折れてしまいそうだという心配は薄まったが、本来均等であるはずの少年のウエストには素でもうすらくびれがあった。肋骨、変形しているのだろうか。上体を反らさせ、浮き出た肋骨の線を描く。……。

 そして、迷ったが見せてもらった。壁に頭を、わたしに尻を向ける形で横になった彼が自ら紫の爪を尻肉に食い込ませ、開く。睾丸からつづく濃い赤褐色の道。その先に、アブノーマルな欲望を受け入れているのであろう皺の寄った穴。穴の縁は心なしか腫れぼったく見えた。

 わたしに変態趣味はない。この娼年の何処其処に視線を遣っても、わたしのセクスは至って落ち着いている。まさか彼を抱きたいとは思わない。しかし妙な高揚は奥のほうで感じていた。ヌードデッサンで女性モデルにどれほどきわどいポーズを取らせても冷静に、機械的に描いていたはずのわたしが。


 果たして、ここにミューズは居るのか? 居るとしたら、外界の貞操固いミューズと比べて相当淫奔な女神だ。

 あれからしばらくエデンに通った。広間の舞台で繰り広げられる、おぞましいなんてレベルではない催しを見物した。影次に限らず娼婦たち皆、体のどこかに痣がある理由は自然とわかった(一部、裸でふらふらしている客のほうが傷や痣はひどかったりするが)。

 外界から解放され、抑圧や理性のない、子供のような快楽主義者たちの欲望を受け入れつづけている奴隷と呼ばれる娼婦たちや、エデンの光景のスケッチをもとに絵を描いてみる。明らかに娼婦の装いをしている女の絵に『聖女』という題名をつけた。広げた毛皮に寝転がる、身につけているのはネックレスとハイヒールのみの娼年。都会の街で行き交う、顔面が肛門の人々。惨殺されているキューピッド。……。

 自然の風景画でも描いているような気分だった。これが人間本来の姿なのかも知れない。

 気まぐれを起こし、この絵の何枚かを世に出してみた。一部マニア向けの画廊では受け入れてもらえたが、画壇からは『低俗に堕ちた』と失望されたようだ。

 なんだかスッキリした。それに、こんな絵でも結構売れた。買い手はほとんど三屋。

 しかし、わたしはこれで生き返れたのだろうか? それはわからない。いまだに空虚感に襲われることがある。こんな淫靡な絵が、わたしの『絵』なのか……? だが、エデン通いはもうしばらくやめられそうにない。

 最近、わたしは辺獄(limbo)にさえ行きはじめた。



 END.



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